- 開発メンバー技術コラム
若きエンジニアを未来へつなぐ「学生フォーミュラー大会」
車づくりの基礎で競う
エンジン音が響き、ピットエリアに熱気がこもる。自動車技術会が主催する『学生フォーミュラ日本大会』は、全国の大学・高専の学生たちをはじめ、アジア圏の学生が自ら設計・製作したフォーミュラカーで競う、日本最大級の学生エンジニアリングコンペティションです。競技は単なるスピードレースではなく、車両設計のコンセプト、コストマネジメント、プレゼンテーション能力までが総合的に評価されます。つまり、速く走る車だけでなく、どう考え、どのように形にするかまでが問われる。まさに車づくりの基礎で競う競技です。審査は自動車エンジニアのプロフェッショナルによる厳格な車検にはじまり、「コスト・プレゼンテーション・デザイン」の静的審査と、「アクセラレーション・スキッドパッド・オートクロス・エンデュランス・効率」といった動的審査の審査結果のもとで順位を決定し、これらの総合点で優れたチームが優勝を手にします。

「学生フォーミュラ大会」は2003年の初開催から年々規模を拡大し、今では100チーム近くがエントリーするほどまでに成長しました。学生たちは1年をかけて構想から設計、製作、テストを行い、本番のサーキットでその成果を披露します。限られた予算と時間の中で、未知なる課題に取り組みます。その過程そのものが、車づくりのリアルな基礎となるため、学生フォーミュラーは「自動車業界の未来を支える人材育成の原点」とも言えます。
GLMのブース出展
昨年に続き、GLMは会場内の企業エリアにブース出展しました。「ものづくりの現場から次世代を応援したい」という想いから、GLMはエンジニア志望の学生を対象にインターン募集を実施。EV開発や車両制御、軽量化技術など、GLMが培ってきた先進技術をテーマに、EVプラットフォームを展示し学生たちに直接触れてもらう機会を設けました。

実際にGLMブースでは、車両開発エンジニアが学生からの質問に応じ、設計プロセスやEVにまつわる構造の考え方などをできるだけ丁寧に説明しました。なかでも多くの学生が関心を示したのは、EVでありながら走りを犠牲にしない設計思想でした。学生フォーミュラーで速さを追求してきた学生さんたちにとって、電動化の時代におけるドライビングの愉しさをどのように定義するかというGLMの問いかけは、強い共感を呼びました。

GLM榎木の恩師との再会
今年の学生フォーミュラー大会では、GLMにとって印象的なハイライトがありました。GLMのエンジニア、榎木憲治が、母校・大阪産業大学のブースを訪れた時のことです。実は榎木は同大学の学生フォーミュラチーム「OSU Racing Team」の第一期生として活動しており、当時はまだチームが立ち上がったばかりで、設備もノウハウも整っていなかったそうですが、仲間と切磋琢磨して、フレームを溶接したり、サスペンションのジオメトリを何度も修正しながら、ようやく初代マシンを完成させたのは10年以上も前のことと言います。そんな榎木が当時の顧問、丸山太加志先生との十数年ぶりに再会を果たしました。さすがに私のことを覚えていないのではないかという榎木の不安をよそに、
「榎木くん!サスペンション担当だったね。忘れるわけがないだろう。」
その一言に、榎木も思わず笑顔を見せました。先生は今も当時の学生たちの奮闘を鮮明に覚えており、「彼らがいたから、今のOSU Racingがある。」とおっしゃっていました。先生の目は、まるで自分の子どもの成長を見守るようであり、GLMのエンジニアとして成長した榎木を暖かく迎えいれてくれた瞬間でした。
原点は、学生フォーミュラにある
現在、榎木がGLMで担当しているのは、EV開発の肝となるバッテリー領域。学生時代に限られた環境で培った力が、今も彼のエンジニアリングの核にあると言えます。
「学生フォーミュラーでは、何をするにも方法を探すのはすべて自分たちでした。だからこそ、理屈だけじゃない車づくりを考える癖がついたと思います。」
GLMでは、独自のEVプラットフォームをゼロから開発し、軽量で高剛性なシャシー構造を実現しています。その設計思想には、最小限の材料で最大限の性能を引き出す学生フォーミュラー時代の哲学が息づいているともいえます。

未来を駆動する学びの場
GLMは、学生フォーミュラーを通じて次世代のエンジニアたちと出会い、学びの循環を作り出そうとしています。かつて一人の学生が描いた理想の車づくりは、いま京都で新たな自動車開発に大きく貢献しています。たとえ、レシプロエンジンを駆使してレースに挑んで培った実体験は必ずや次世代のモビリティ開発に役立ちます。GLMもまた、その原点にある学びと情熱を忘れずに次なる挑戦に挑んでいきたいと思える貴重なイベントとなりました。
▪︎学生フォーミュラー大会
https://www.jsae.or.jp/formula/