2018年5月「人とくるまのテクノロジー展・横浜」でお披露目された<京セラ>のコンセプトカー。その車には、自動運転や先進運転支援システムへの活用が期待される高精細なカメラや液晶ディスプレイのほか、セラミック技術を応用した超薄型ピエゾスピーカーなど、京セラ独自の12種類のデバイスやシステム、素材を実装しています。会場で多くの注目を集めたこの車のプロジェクト推進責任者、京セラ株式会社 研究開発本部 車載プロジェクトの中島康氏(写真右)と、GLMのプロジェクトリーダー田中正胤(まさつぐ)の対談を通して、このプロジェクトを振り返ります。

Q. コンセプトカーをお披露目しましたが、率直な感想は?

京セラ 中島康氏(以下、中島):正直、このコンセプトカーが世間に受け入れられるか、どういうふうに見られるか不安でした。というのも、我々が自動車メーカーでもないのに車を作って、搭載した製品も自動運転などの超最先端のものでなく、カメラや液晶とか部品に特化したものだったので・・・ただ、実際発表してみると、「近未来的でスゴく、カッコいいね!」という声が多く聞けてとてもうれしかったですね。 一方で「京セラさんって車載もやっているんですね」という驚きの声がお客様から多く聞かれました。やはり我々はセラミック部品とか電子部品等をずっとやってきたので、「素材メーカー」や「部品メーカー」のイメージが強く、あまり「車載デバイス」をやっているイメージが伝わっていなかったと感じました。

GLM 田中正胤(以下、田中):確かに「京セラ」というと、「車」というより、スマホやソーラーパネル、セラミック部品など他のイメージのほうが強いですね。

中島:そうなんです。我々は独自の「アメーバ経営」のもと、個々のプロダクト、事業を重視してやってきました。ひとつひとつの製品には自信を持っていますし、車載向け用途もつくっているのですが、それぞれの事業本部が独立しているため、会社として大きな枠組みで「車載部品に強い」というイメージを作れずにいたんです。それを改善すべく、これまでの「個」から「総合力」で車載部品事業を伸ばしていこう、そしてその指針を表現するには実際に一つの車に搭載して公開するのが一番いい方法なのではないかと、プロジェクトが動き始めたんです。

Q. そんな中で、なぜGLMをパートナーとして選ばれたのでしょうか?

中島:きっかけは弊社の役員なんですが、GLMさんの記事を見つけたんです。小規模な会社ながらトミーカイラZZを作るEVメーカーで・・・しかもよく読んだらめちゃくちゃ近所じゃないか、と。(笑)調べてみると「プラットフォーム事業」をされていて、まさにいま弊社がやりたいことができそうだということで、まず連絡をとってみることにしました。

田中:ほんとに近くて、車で5分くらいの距離なんです。京セラさんといえば京都を代表する大企業。そんな会社と一緒にお仕事ができるというのはとても光栄なことだな、と思いましたね。

Q. GLMはまだ歴史の浅い会社ですが、協業の決め手となったのはどの部分でしょうか?

中島:実際にトミーカイラZZを見たことです。大衆車ではないですが、スポーティーでパワフルで、しっかりとしたものづくりをされていることがすぐに分かりました。それに製品として世に出せていることは大きな実績だと思いました。あとは、この車を作り上げた少数精鋭のクルマづくりのエキスパートが揃っていることですね。

Q. 開発にあたって苦労されたことを教えてください。

中島:数えればキリがないんですが(笑)、デモなら動いたものが、繋げると動かないことですね。デバイスごとに見てみると、ちゃんと動くんです。しかし車載となるといろんなデバイスとの連携が必要になってきます。いざ繋げると起ち上がらなかったり、配線を長くすればノイズがでたり・・・経験上、トラブルの傾向はわかっているんですが、では「どれくらい配線を長くすればそのエラーは発生するのか?」「どれとどれの相性が悪いのか?」は結局やってみないとわからない。やっては繰り返し、何度も何度も試していましたね。ただ、トライアンドエラーを繰り返す中で、思い返してみるとカメラもディスプレイも昔から作ってきたのに、それを繋げるっていうことは、大げさに言うと、我々は「やったことがなかった」ことに気づきました。それって『お客さん(OEM・Tier1)の仕事でしょ?』と考えていたからだと思います。

田中:いままで京セラさんはOEMや上流のサプライヤーに製品単品に対してクオリティを求められていたわけです。デバイスを組み合わせて動かすというのは、通常OEMが主体的にやる領域ですので、京セラさんが今まで見えていなかったところ。つまり自動車メーカーが経験してきた開発過程を共に体験しました。

中島:これまで私たちは、どんな製品を作るかよりも「お客様から頂いた要望にどう応えるか」という考えで製品開発をしてきました。ただ、車載においては、幾多のデバイスが連携して1台の車を成すわけですので、この考えだけでは今後は厳しい。お客様が何を求めているのかを汲み取り、それを解決するために今の技術をどう活かせるかを自社で考え、積極的に『提案』していかなければならない。今回のプロジェクトを通して、開発を提案型にシフトする糸口がつかめた気がします。

Q. かなり濃密な開発時間をGLMと過ごされたと思われますが、そんな中で自動車メーカーならではのエピソードを教えてください。

中島:問題が起きたときの対処の仕方ですね。とにかく視野が広い。トラブルが起きているとき田中さんは、「ここに問題が起きているけど、それとつながっている部分は大丈夫?遠い場所だけどこっちは?」って聞いてくるんです。弊社のメンバーはトラブルが起きているその場所に集中してしまいがちですけれども、そんな中、全体を俯瞰して見るための投げかけをしてもらったのは、若いメンバーが多かった弊社のエンジニアにはいい経験になったと思います。

田中:自動車というのはどうしても全体像が大きいです。一つの不具合が起きたとしても、その要因は複数、様々な場所にまたがってある場合があるので、対策も全体を見ないと立てることができません。今回のプロジェクトはそういう考え方をチーム全体に共有できるよう意識しました。

Q. 今回のプロジェクトで個人的に印象に残っていることはありますか?

中島:宝飾品部の人と関われたことですね!同じ会社なんですけど、これまでまったく絡んだことがなかったですし、いっしょに仕事することもないだろうなと、ずっと思っていました。搭載したのは『京都オパール』という弊社が開発した人工オパールです。最近だと、スマホの装飾や、神社のお守りなどにも使ったりしていますね。コンセプトカーにはオパールを細かく砕いて、シートのロゴやナンバープレートの装飾に使いました。

田中:宝石箱を開いて、いろんなオパールを見せてもらいましたよね。これはこんな加工できますと教えてもらったり。

中島:はい、宝飾品部の人間も「ビジネスの領域が広がった」ととても喜んでいました。自社が持つ技術をどう車載に応用できるかを部署の垣根を飛び超えて、活発に議論できたのはなかなか面白い体験でしたし、会社にとってもプラスに働いたと思います。

田中:自動車は最終のアウトプットが1つなので、それに向かっていろんな部署が話し合いますが、京セラさんは先ほども話があったように製品ごとに本部が分かれているので“個”が強い文化。クルマづくりを通して、こういった横断的な話し合いの場が増えれば革新的なアイデアも出やすくなるのではないでしょうか?

Q. 次期車両に期待が膨らみます。次なる目標はありますか?

中島:今回は主に目に見える部品しか出せませんでしたが、まだまだ載せられるものはたくさんあるんです。LEDヘッドライト・デイライトや、カメラのイメージセンサに使われるセラミックパッケージなどは世界シェア1位ですし、自動運転に向けたADAS用のセンサー部品やその関連技術も多く開発しています。そんな強みを持つ素材やデバイスを搭載し、車の未来を考えた京セラらしさが伝わるコンセプトカーを開発していきたいですね。

インタビュアー:GLM広報部

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