EV

ガソリン車に比べ、飛躍的にシンプルな構造になったEVは、家電のようにユニットを組み合わせば簡単に作れると思われがち。果たして本当にそうなのでしょうか? そんな疑問にお答えすべく、記念すべき第1回目の技術コラムでは、GLMのエンジニアに素朴な疑問から見えるその実態を紐解きます。

GLMで車体設計を担当するエンジニア

Q. EVとガソリン車のクルマ作りの大きな違いはどんな点でしょうか?

とにかくバッテリーがケタ外れに大きい。航続距離を稼ごうと思うと、どうしてもたくさん載せるしかない。そうすると車の中で大きなスペースを占領してしまうから、クルマのキャラクターを決定づけてしまう。EVもガソリン車も原動機の部分の重さはさほど変わらないんです。例えば、ガソリン車はタンクいっぱいに燃料を積んだとしても100kg程度。一方、バッテリーはすぐに500~600kgにもなってしまう。コストも同時に跳ね上がるので、必然的に高級車しか作れなくなってしまうのが、いまだにEVが大衆車になりきれてない要因でしょう。そもそも“軽さ”と“安さ”はEVに限らず自動車開発の永遠のテーマ。エンジニアとして、そんなバッテリーで重くなる車重を少しでも軽くしたいという願望は常にありますね。

まだまだ充電時間がかかることだったり、ガソリンを給油する手軽さと違って、その利便性のハードルが高くあるように思えます。なるべく一回の充電で距離を走らせたいというユーザーのニーズがあるので、やはりバッテリーは大きくせざるをえない・・・。

それにガソリンは液体なので燃料タンクの構造が、ある程度、融通が効くのに対し、バッテリーはその物の形となります。つまり、バッテリーはどこまでいってもバッテリーなので、バッテリーを基準にして車体を合わせないといけないのが難しいところです。その分、フレーム構造や素材など、バッテリー以外の部分で少しでも軽量化を図れるようにしないとですね。

一方、バッテリーは衝突安全性の観点からバッテリーパックという強靭なシェルに覆われています。そのためEVのクルマ作りでは、その特性を利用して車体設計の一部にする考え方があります。例えば、頑丈なバッテリーパックを車体の床下にレイアウトすることで、従来のガソリン車に対し、ボディ剛性の向上や低重心化による走行性能の向上が期待できます。バッテリーで増えたものを逆に生かして、いかに性能をアップするかを考えながら設計を行っています。

Q. ユーザー目線で見た違いはどんな点でしょうか?

やっぱりユーザーからみて『電欠』と『ガス欠』の重みが明らかに違う。ガス欠であれば、ロードサービスを呼べばどうにかなりそうですが、電欠となると簡単には助けてもらえない。まだインフラが完璧に整備されていないこともあって常にそういった恐怖感がつきまとうはず。

今は気をつけてくださいとしか言えないけど、強いて言うならどこで充電できるか知っておくだけでいいかもですね。高速道路のSAや日産と三菱のディーラー、イオンなどのショッピングモールには急速充電器や200Vの普通充電器があるので、必要以上に怖がらなくてもよい気もします。

バイクのリザーブタンクのように、例えば、電欠になりそうになると、緊急モードになって、その間に充電スポットまで走行できるシステムがあってもよいかもしれないですね。

そもそもバッテリーの残量計の精度をもっと上げたいですよね。今はアクセル開度で急に残量が減ったり戻ったりしてしまう。ちゃんと正確にバッテリー残量が計れると計画も立てやすい。

Q. 面白いEVは作れるものでしょうか?

EVに限らず、ここ最近のクルマはとてもちゃんとしています。ちゃんと走るのか?なんて思う人なんていないはずです。でも歴史に名を残すようなクルマは、もっと突拍子もないようなことに挑戦したクルマだと思います。たとえば、『シャパラル・2J』というレーシングカーは、路面との接地力を稼ぐ方法が変わっていて、クルマに掃除機(ファン)を搭載しているんですよ。(笑)車体床下の空気を吸い出すことで、車を路面に押しつけていました。よくそんな発想が生まれたなと今でも感心してしまいます。

シャパラル・2J (出典:ウィキメディア・コモンズ)

EVでも初代テスラ・ロードスターは、ロータス・エリーゼをベースにしていたけれど、ちゃんとスポーツカーになっていた。当時、ベンチャーとして作り上げた事実は、伝説になると思います。EVはまだまだこれからですし、そういったクルマはまだ生まれると思います。そういった意味でも大手が作らないようなニッチなクルマ作りができるのがGLMの強み。失敗を恐れない姿勢で取り組んでいきたいですね。

GLMと一緒に開発してくださる部品メーカーさんは、少量生産だからこそ、こだわり抜いたプロダクトを提供しようと協力してくれるところが多いです。僕もそうですが、部品メーカーのエンジニアも遊び心をもって開発に取り組んでいるので、そんな部品が結集したGLMのクルマは面白くなるはずです。ユーザーが手を加えにくいと言われるEVですが、もっと車を乗り手の好みに自由に仕立てることができれば、従来のクルマを“イジる楽しさ”として実現できるんじゃないかと思います。例えば、パワステの重さを調整できたりとか、パワーの出力をチューニングできたりとか、自分専用のセッティングをEVでもできたら楽しいですよね。

やっぱりクルマの面白さっていろんなタイプがあると思う。簡単にいうとDIY的な面白さと完成品の面白さ。例えば、イジる楽しさはまさにDIY。一方、完成品の面白さでいうとダイハツのタント(2代目)は、軽自動車ではじめてBピラーレスの車だった。これも発想がすごく面白いと思ったし、世のお母さんたちにはとても役に立ったはず。開発側から見ると、どっちの面白さにも、ユーザーが求める部分と外せない部分が強調されていると思うんですよ。 GLMは、少量生産のクルマ作りにこだわってるわけだから、大手メーカーの作り出す優等生な出来とは対照的なクルマに挑戦できる。ある部分は120点だけど、他の部分は20点なんて車もね(笑)とはいえ優等生な車が多い中、そんなことをEVでやるんだから、僕らのEV開発はますます簡単ではないよね。

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